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    どるおたこじらせてる
     那月くんに渡されたパーカーを羽織り、監督さんに渡された設定画に目を通します。
     舞台は遠い世界の王国。
     那月くんは、国を追われた、傷ついた王子様。
     長い旅路の果てに、花咲き乱れる地へとたどり着く。
     そこで出会う少女が、わたしです。
     映像にはCGが多く使われるらしく、わたしが今目の前にするスタジオ内には、「まるで星を一面に敷き詰めたような、光り輝く花畑」はありません。
     王子が暮らしていたお城も、彷徨った薄暗い森もありません。
     だけど、那月くんはそこに在るように、演じるんです。
    「お嬢さん、そろそろ出番よ?」
     スタイリストのお姉さんが、口元のメイクを作り直して、ぽんと背中を叩く。
     自信なんて全くないけれど、
    「ハルちゃん。」
     那月くんが手を伸ばして、待っていてくれるから、
    「はい。」
    わたしはまっすぐ、彼の元へと歩いて行きました。
    「四ノ宮さんの衣装替えがあるので、先にラストの画を撮ります。」
     絵コンテを持つスタッフさんが、わたし達にそう説明をする。
     ラストは確か、二人が花の海に寝転がって幸せな夢を見ている場面でした。
     固くて冷たいステージに横になり、那月くんと顔を見合わせると、頬に彼の指が触れて、ふにふにと突かれる。
    「表情が強張ってますよぉ。」
    「あう。」
     那月くんと一緒だから大丈夫だと、頭ではそう思っていても、たくさんの人に視線を注がれ、ちらちらと視界に入るカメラを意識すると、どうにもうまく行きません。
    「初めてのことなので……。」
    「ねえ、僕のお姫様。」
     くすりと笑みを零して那月くんは、わたしの頭上で輝くティアラを撫でて、
    「ここは、とっても綺麗な花畑なんです。」
    内緒話をするみたいに、声を潜める。
    「さあ、目を閉じて。
     大きく息を吸えば、甘い花の香りに包まれて――、
     あ、今、風が吹きましたね。」
    恋人の指が、わたしの髪を絡め、揺らす。
    「暖かいですね。お日様が空高くから、僕達を見つめています。
     ここのお花はね、ハルちゃん、光を受けてきらきらと輝くんですよ。
     お日様の光でまあるく暖かく灯るんです。
     ね、耳をすましてみて?
     風でゆらゆら揺れるたびに、歌が、聞こえてきませんか?」
    「歌が――」
     那月くんの語る言葉も、まるで詩のよう。
     魔法にかかる。
    「夜になると、今度は、優しい月の光を集めて、
     星空に抱かれている、そんな気分になれます。
     ほら、また、歌が聞こえるね。」
    「はい。」
     光が瞬くのは、小さなハミング。
     色とりどりの花に抱かれて、わたしは眠っている。
     隣に、大好きな人がいる。
     風は止むことがなく。
     旋律を紡ぎ続ける。
     不意に、頬にぬくもりが触れた。
     その感覚をわたしはよく知っている。
     目蓋を持ち上げれば、
    「那月くん……。」
    レンズの向こう、目を細めてわたしを見つめる、恋人の姿がありました。
    「――っ!」
     状況を思い出し、途端顔を赤くしてしまう。
    「な、那月くん!
     撮影中です!!」
    「うん、そうなんだけど、」
    大きな手がわたしの両の頬を包んだかと思えば、あっという間に、彼の顔が目の前にあって、
    「ハルちゃん可愛いです。」
    唇に触れるだけのキスを落とす。
     そして、言葉にならず体を震わすわたしに微笑んで、
    「大丈夫、カメラにも、他の誰にも、あなたのその表情は映させやしません。
     僕だけの秘密です。」
     それだと、あなたも恥ずかしくないでしょう? と言わんばかりの彼に、そういう問題ではない、と言い返そうとしたのですが、吐息ごと全部、飲み込まれてしまいました。

     *

     那月くんが衣装を着替える間に、わたしはメイクを直してもらい、平謝りをしてその後。
     緊張はとれたのですが、羞恥に必死に耐えているところに、旅人の風貌をした那月くんが現れます。
     恨みがましく睨め付けると、それもまた可愛いと言われてしまい、
    「残りの撮影も頑張りましょうね。」
    と、笑顔で言われてしまっては、これ以上何も言えるはずもなく……ううっ、やっぱり、甘過ぎるのやもしれません。
     二人で眺める絵コンテから視線をあげ、彼を見る。那月くんは本当に楽しそうで。スタッフの方々も特に気にされていない様子ですし、こんなに嬉しそうな彼の笑顔はしばらく振りだと思うと、強く叱ることが憚られてしまいます。
     きらきらと、華やかな世界の裏側は、わたしには想像のつかない位、昏い部分を包括していると聞きます。那月くんは、愚痴は零さないものの、疲れ果てて、帰宅と同時にわたしを抱きしめてそのまま眠りに落ちてしまう日も、頭を撫でてとおねだりすることもありました。頑張るね。と、泣き出しそうな顔で微笑まれた時には、頑張らなくていいと泣いてしまって、わたしはなんて無力なんだろうと思いました。隣にいるのに――と、何度も何度も唇を噛んで、那月くんのためにと曲を書いた。
    「ハルちゃん?」
     呼ばれて、ハッと意識を引き戻す。穏やかに微笑む彼に、ぎこちない笑顔を返して、
    「ごめんなさい、聞いてませんでした。」
    正直に告げて、書類へと注意を向ける。那月くんは咎めることなく、もうすぐ準備が終わるそうですよ~と報告してくれた。
    「那月くん、お仕事、楽しいですか?」
     ぽつり。わたしの零した小さな声を、彼はきちんと掬い上げて、
    「はい。大好きです。
     だから、ハルちゃんにも、知って欲しかった。」
     手を引かれ、わたしは彼と共にステージへと歩を進める。
    「僕等を照らすのは、天上から見守ってくれるお日様や、
     夜空に浮かぶ月や星だけじゃないんです。」
     指を差され、見遣ると、その明るさに目が眩む。熱の籠った照明光は、わたしの知らなかった、アイドルである那月くんの住む場所。
    「強過ぎる明かりに負けないように、いっぱい輝かないといけません。」
     所定の位置で、わたしは座った。
    「――あなたの音楽があれば、僕はどこまでも強くなれる。」
     見上げる姿は、白光灯を背にしてもなお、しっかりと笑顔をわたしに届けて、監督さんへと振り返った。
    「好きな様にやっていいんですよね!」
    「せめて疑問形にして欲しいんだけど!」
    【 2012/05/06 00:49 】

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