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    chi*ko*ku
    音君おめでとう^q^

    *

    「本当に、本当に、ありがとう!
     ……言葉じゃ全然伝えらんないね!
     聞いて、俺の歌。この気持ち、まるごと全部込めるから。
     『虹色☆OVER DRIVE!』」
     シャイニング事務所における同期とは、すなわち早乙女学園の同級生であり、仲が良いのが通例である。関係者もそれを良く把握しており、彼等はグループ活動こそしていないが、バラエティの司会にペアで抜擢されたり、番組内で期間限定ユニットを組んだり、雑誌の特集ページに対談企画を立ち上げられることも多い。
     その中でも特に、5年前に卒業した8名は仲が良かった。一十木音也・一ノ瀬トキヤ・聖川真斗・神宮寺レン・四ノ宮那月・来栖翔・渋谷友千香・愛島セシル――それぞれが揺らぎない人気を築き上げ、スーパーアイドルとして、テレビで観ない日がない彼らをファンは水面下で、星(スター)組と呼んでいた。
     その星組が、チャリティーアルバムを発売、更に5大ドームツアーの開催決定という告知は、ファンクラブから瞬く間に広がり、メディアも大々的に取り上げた。DVD付の初回限定盤は情報公開のその日のうちに予約上限枚数を埋め、発売日には、通常版も含め初動売上でミリオンを突破したとのニュースでお祭り状態となる。
     噂によると、コンサートチケットの倍率は十倍だったとか、そうでないとか。
     4月8日。今日はツアー初日、東京ドームでの公演日である。
     幸運を手にしたファン達は、それぞれ自分が応援する出演者の色のシュシュと、ツアー限定発売の黒のシュシュを左右の腕につけ、ある女性は少しでも高いヒールをはいて、ある男性はライブ会場限定のバスタオルを首からかけ、またある人は手作りのうちわを握りしめて、この場所に参戦する。
     浮ついた空気の中で口々に囁かれるのは。

    「絶対今日! あるって! 誰よりも友人想いなレン様が外す訳ないじゃない!」
    「そうだよね! トキヤくんが把握してるはずだし……はああ、一一(いちいち)萌え……。」
    「一一もいいけど、私はAクラ担の、聖川様推しですし?」

    「ねえねえ、なっちゃんがケーキ作ってきたりして。」
    「そこは翔ちゃんが止めるでしょ~。」
    「音友期待! 音友待機!」
    「レアキャラだねえ!」
    「自負しております!」

    「某としては、友千香嬢にメイド服を。」
    「甘いぞ隊員。ここはきっと、揃いの衣装で出てくるであろう。つまり、男装である。」
    「それは浸りますなあああ!」

    「愛島君もお祝いするのかな。あのツンデレ王子が。……卒倒しそう。」
    「ちょっと、まだ始まってないんだから!」

    「音くん、泣いちゃうかな?」
    「そしたら、私も一緒に泣いちゃう~!」

    ―――楽しみだね、一十木音也のサプライズバースディー企画!

     定刻17:00には、ファンのコールが開始された。
     音也から順に、出演者の名前が呼ばれ、手拍子が打ち鳴らされる。
     照明が消え、前方ステージにスモークが炊かれた瞬間に、客席から堰を切ったような歓声が響き渡り、ドーム内を埋め尽くす。

    「みんな~! お待たせ!」
    「準備はいいですかぁ?」
    「今日はお祭りだ! 思いっきり騒ごうぜ!」
    「お前達に、幸福な時間を約束しよう。」
    「love you, my lady... 今日の俺は、一味違うよ?」
    「魅せてあげる、最高のアタシを!」
    「アナタに魔法をかけてあげます。」
    「さあ、行きますよ。」

     吐息混じりのトキヤの合図に依って、8人が声を揃えて叫ぶ。

    「Let's party!」

     破裂音が鳴り、金色のテープが宙に打ち出された。
     歓声の中流れるイントロ。
     夢の時間が今、始まる。

     *

     ソロ曲に時折、ユニットソングを混ぜて、セットリストの通り、順調にコンサートは進む。
     自身の曲を歌い終わり、歓声に一息吐いた音也は感極まって、
    「俺達のこと好き?」
    と客席に向かい投げかけた。
    「好きー!」
     黄色い歓声が即座に返ってくる。嬉しくなって、口元が緩むのを、敢えてへの字にする。
    「聞こえなーい。」
     嘘。本当は胸いっぱいに響いてる。だけど、今日はいっぱい欲張ってもいいかな。
    「俺達のこと、好きー?」
     2度目の問いかけへ、
    「スキーーー!!!」
    特に赤のシュシュをつけた女子は全力を以て返した。悲鳴にも近い愛情表現に、彼は今度こそ、満面の笑みを浮かべる。
    「俺もみんなのこと、大好きっ!」
     またしても、割れんばかりの歓声が客席を埋め尽くした。
    「おい、『達』が抜けてるっての!」
     浮かれる彼の背中を、翔が叩いた。一部のファンがピギャアと喉を震わせる。
     次に控えるSクラス卒の3名が、待ちきれずに出てきたようだ。
    「イッキ。次は俺達の番だよ?」
    「早くステージを譲ってください。」
     ため息を吐く姿もまた美しい……と、客席でトキヤのうちわを持つ彼女達はスクリーンを凝視する。一一は今日も安定だ。と、発作を押さえるように胸元の布地を握りしめる姿もあった。その一方で、一一を見つめるレン様の視線の優しさがピヤアアアアと神宮寺担当が息切れを起こす。会場の熱気は最高潮だ。
     ごめんね。と、反省しているようには見えない笑顔で詫びて、ステージ端へと駆けて行く元同室の、ライバルの背中を目だけで見送り、トキヤはもう一度嘆息した。
     振り返り、客席に向かって大きく手を振って、今度こそスクリーン裏へと消えて行く音也は、言葉の通りファンが大好きなのだろう。無意識のうちに微笑が浮かぶ。そう、こうでなければ、サプライズの意味がない――愛する者に囲まれて彼は、二十代へと踏み出す。大事な節目の瞬間を企画・演出することを誇らしく思う。
     窺う視線に、トキヤは笑った。左のそれは彼の上から、右は彼を見上げ、それぞれが親しみの籠った笑みを返す。水面下で準備は整えてきた。
     後は、時が来るのを待つだけである。
     プログラムは中盤。
     フリートーク。
     それまでは、今宵のお客様に全力のパフォーマンスを披露しましょう。それが、私達の勤めです。

     *

     息が弾む。
     それは、急いでるから。
     全員で行なう、このトークコーナーの次は音也のソロ曲。
     だから彼はこうして、一人だけ先に裏手に引っ込み、慌ただしく衣裳の袖に腕を通す。
     心臓がドクドクと音を立てる。
     ――楽しい。
     バスタオルで顔を拭い、汗で貼りついた前髪を手櫛で直した。どうせ、踊ったら乱れてしまうんだけど。
     彼は、ライブやコンサートが好きだった。応援してくれている人に会って、この目で捉えることが出来ると、実感が湧く。ああ、俺、この人達のために、もっともっと頑張ろうと思う。
     お客さんが笑い、喜んでくれることが嬉しかった。高揚する気持ちを共有する空間が愛しかった。
     想いを乗せ、歌う。最愛の女性の紡いだ音をなぞる。客席から視界に届く反応を、リアルタイムで見る。
     なんだか、2人で一緒に認められる気がするんだ。
     俺1人じゃ掴めなかった音楽――夢。君がいて初めて、ここに立てる。いつか、君にも見せてあげたい。俺が君にあげられる中で、とびきりの、最高の景色だよ。
     ステージ上の、マイクを通した軽快なトークの音は、裏にも届いている。今は、翔がドラマのクランクインをしたという話題で盛り上がっていた。彼が初めて共演する先輩男優は以前、友千香と歳の差カップルを演じたこともある。
     5年の歳月で、多くの人に出会った。共に仕事をしてきた。
     音也は笑みを零す。その中でも、友人でありライバルでもあるこのメンバーでステージに立てたことが幸せで、だって、俺の気持ちをわかってくれる。同じ気持ちでいてくれることが幸せという言葉では収まりきれなくて、これからまた檀上で歌うというのに、衝動は止まない。
     春歌――君の手を引いて、歓声溢れるあの場所に行けたなら、きっと。俺のこの想いを旋律に代えてくれるんだろうか。
     大らかに見えて、周囲の変化にも割合気の付く彼が、ステージメンバーの様子のおかしいことに気付けなかったのは、それだけ、この空気に浮かれていたからであろう。

     ブツン。

     会話が不意に途切れ、スタッフのざわめきが空間を占める。
    「照明が落ちた!?」
    「えっ!?」
     報告を受けたチーフが大きな声を挙げ、音也はそれに振り返り、
    「音也君! ステージに上がって! 早く!」
    切羽詰まった声色に何の疑いも持たず、頷き、指示通り階段を駆け上った。
    「――っ。」
     言葉を失う。人の気配のみを残し、暗闇の中、点灯するペンライトの姿はひとつもなく、
    背筋を寒気が駆けた。
     ただ1人で放り出された舞台の上、高揚した気持ちが急速に冷えてゆく。
     一体、何が起こったんだ。
     名を呼ぼうとして、言葉に詰まる。どうして――。静寂に押しつぶされそうだった。これは、夢?

     *

     永遠にも続くかと思われた暗闇を、歌声という光が切り裂いた。
    「例えるなら人生が」
     真斗の誠実な性格をそのまま切り出したような、芯のある声をはじめに、
    「もしも一本道だったら」
    魅惑的な響きを持つレンの歌声が続く。
    「避けて通れないこの場所に」
     トキヤと那月のビブラートが美しく重なって
    「俺のドッペルゲンガー」
    「きっと俺に言うんだろう」
     翔、友千香と続けば、もう、彼らが何を歌っているのかは疑いようもなく、音也は茫然と立ち尽くした。
     スポットライトが焚かれる。音也と、
    「HAPPY BIRTHDAY, My Brother.」
    彼に向かってケーキを差し出し、にっこりと笑顔を作るセシルを照らして、その姿を知覚した観客は一斉に歓声を挙げ、祝福の拍手を打ち鳴らした。

    「いいか、トークコーナー、お前等は絶対しゃべるなよ!」
    「翔ちゃん、僕は大丈夫ですよぉ!」
    「四ノ宮はともかく、何故俺にまで言う?」
    「聖川も、嘘を吐けるタイプじゃないだろ。」
    「マサやんも那月も、とにかく素直だからね~。」
    紅一点の言葉に、セシルは目を瞬かせ、
    「スナオは悪いことなのですか?」
    と聞く。
    「時と場合によるということです。」
     トキヤがぐるりと全員を見回す。これが最後の打ち合わせ――あと5分で音也が会場入りするだろう。本日の主役に伝えられたのより1時間早く集合して、それでも、通しで練習をできたのはただ1度のみ。
     失敗は許されない。音也に勘付かれては、苦労はすべて水の泡と化す。
    「いいですか、皆さん。」
     トキヤは真剣な表情で念を押した。
    「――音也を泣かせますよ?」

     ステージ裏へと行った音也には見えていなかった。音也誕生日サプライズを企画していると説明する字幕が、スクリーンに映し出されたこと。主に翔と友千香がトークをしながら、それと同時に準備が進められ、客席には『お静かにお願いします』と伝えられていたこと。
     通常通りの照明パターンへと切り替わり、音也は、赤毛のウィッグを被った7名に取り囲まれている状態であることを知った。髪型はそっくり音也とお揃いで、
    「音也くん、どうですか? ドッペルゲンガー1号ですっ。」
    「2号だ。」
    那月が柔和な笑みを浮かべ、真斗が真面目な表情で軽く手を挙げる。
    「音也、固まっていないでリアクションをしなさい。」
    「そうだよ、イッキ。反応がないと、こちらもどうしていいかわからないからね。」
    「それにしても、ウィッグを被った愛島さん、本当に音也と兄弟みたい。」
    「ウィッグ被ってなくともそうだろ? よく音也と喧嘩してるし。なんか、似てるよなあ。」
    まじまじと二人を見比べる翔に、客席から微かながら同意の反応が届いた。それに対して、
    「そうですかぁ? 僕は、音也くんはワンちゃんで、セシルくんはネコさんだと思ってますよ~。」
    那月は指をピッと立て、にっこりと笑う。
    「……ふっ。」
    「一十木?」
    「オトヤ?」
     予測外の事態にすっかり固まってしまっていた彼が、
    「あはっ、あははははは!」
    お腹を抱えて笑い出して、ファンとステージ上の皆が胸を撫で下ろす。
     音也の正面に立っていたセシルだけが、笑う彼の目元がキラリと光ったのを見た。トキヤの作戦が成功したようです。と目くばせをすれば、トキヤがスタッフへと合図を送る。
     オルゴールの煌めく音の調べが会場を包む。那月と真斗が客席に向かって「せ~のっ」と言えば、お誕生日おめでとうと歌う声でいっぱいになった。

     *

    ――3アンコールを含む、全プログラムが終了して、それから。
     
    「まさか、まさか、公式で兄弟組が見れるなんてっ!」
    「泣くな泣くな!」

    「音くん、嬉しそうだったね!」
    「あのメンバーと一緒にお誕生日おめでとうを歌えたんだよ……すごいよ……。」
    「『週刊シャイニング☆』で、今日のこと絶対話題になるよ!」
    「予約しなきゃ!」
    「もちろん、毎週録画プログラムしてますけど!」

    「公式ブログの更新は何時だろ! 更新! 更新!」
    「さすがに今日中には無理でしょ~。」

    「友千香嬢は、」
    「ああ、我々が思っていた通り、」
    「ショートカットも似合いますなあ。」
    「そうですなあ。」

     夢の余韻に浸り、賑やかで明るい声に包まれて。
     赤いシュシュを付けた彼女達は、何度も何度も思い出す――。
    【 2012/04/20 17:11 】

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