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    さっちゃんと一緒。完結編2
     言葉を失った俺を救ったのは、第三者の介入だった。
    「七海。四ノ宮。今いいだろうか?」
     教室後方の聖川に呼ばれ、春歌が返事をしながら振り返る。揺れた後ろ髪に手を伸ばしかけて俺は、自嘲めいたため息を零す。
    「砂月くん?」
     彼女は耳がいい。黙殺して眼鏡に手をかけた俺に小首を傾げて、
    「眼鏡を外してしまうんですか?」
    と聞いた。
    「良く見え過ぎて、慣れねぇ。」
     そういうものなのか、と頷く春歌の髪がまた揺れた。窓から差し込む西日を受けてきらきらと輝く様は眩しい。くっきりと認識される細い髪と、仄かに香るシャンプーの匂いから顔を背けた。
    「それに、」
     春歌は俺の態度にさして気を留める様子もなく、じっと俺を見上げて言葉を待っている。親鳥を慕うひよこを連想して、ますます顔を見れなくなった。この小動物め。
    「あいつらは眼鏡の有無で、俺と那月を見分けるだろ。」
    「優しいですね。」
    「那月だと思われてベタベタされるのが、鬱陶しいだけだ。」
     くすくす。と笑みを零し、歩き出す俺の半歩後ろを付いて来る。――彼女の笑い声は耳に心地良い。
    「眼鏡があっても、皆さんは見分けられますよ。」
     冬の弱々しい光が、穏やかにそう告げる彼女を照らして、
    「試してみるか?」
    視線の先には、代わり映えのしないメンバーがいる。
     那月が愛して止まない輪の中に俺は、眼鏡をかけた状態で足を踏み入れた。
    「よし、全員揃った!」
     一十木がにこーっと笑って、
    「マサ、開けていい? 開けていい?」
    机上の巾着袋に手をかける。
    「マサやん、いいの? 自分で配らないで。」
     腕を組んだ状態で、渋谷が聖川をちら、と見遣るが、彼が言葉を発するより早く一十木が、袋をひっくり返した。
     ころん。ころん。と、転がり出てきたのは
    「うわあ!」
    「可愛いです。」
    一十木と春歌の瞳をきらきらと輝かせる、クマのマスコットだった。全部で5体あり、それぞれ色が違う。
     赤のギンガムチェックを迷わず拾い上げた渋谷は、しげしげとそれを眺める。深緑色ビーズの、くりくりと円らな瞳と、同色の糸で刺繍された鼻と口はどこか勝気に見えた。顔や耳・胴と同じ布地で作られ、ボタンで繋がれた手足は可動式で、後ろにちょこんと付いた丸い尻尾までも丁寧に綿が詰められているようだ。
    「マサやんはこれでお店が開けそうよね。」
    「はい、本当に、丁寧な仕上がりで……!」
     春歌が両手で包み込むようにして持つのは、白に桃色の小花が散らしてあるクマだった。手足と耳はサーモンピンクで、彼女の高揚した頬の色に良く似ている。茶系の色でまとめられた表情は柔らかく、優しい微笑みを浮かべていた。
    「俺のがこれだよね!」
     一十木が言って、頭部についたストラップを上に引き上げる。赤と白で構成されたそれは、黒い瞳に教室の照明光が反射し、好奇心旺盛に感じられた。
    「ああ。そして、俺が青のリボンのクマだ。」
     寒色系の淡い色合いでまとめられた、雪を思い起こすマスコットの首元を指差して、クマと揃いの微笑みを浮かべた。それに倣うように渋谷は黒の、春歌は黄色の、一十木は萌黄色の、それぞれの持つリボンに触れた。
     机上には、一体のクマが残る。聖川が持ち上げて、俺の眼前へとぶら下げた。
    「四ノ宮の分だ。」
     陽だまりに良く似た黄色のマスコットの、新緑を思わせる瞳に見つめられて、ごくりと生唾を飲み込んだ。サイズといい、色使いといい、表情といい、那月が褒めそやすであろうそれは、愛らしく、とても魅惑的だ。
    「俺は、こんな可愛いのは好きじゃない。」
     苦々しく、やっと声に出した俺の言葉に対し、聖川は首を傾げた。
    「四ノ宮は、好きだろう?」
     同じ呼称であっても、それが俺ではなく那月を指すことはすぐに理解できる。つい先程の、春歌との会話を思い返した。試してみるとは言ったが、
    「俺は那月じゃねぇ。」
    まさか、眼鏡をかけているから勘違いしたっていうのか? 那月だったら、クマが出てきた時点で可愛い! とはしゃいでいただろうに。
     言葉を発したのは一十木だった。
    「えっと、砂月の分が欲しかったってこと?」
     目を見張り、声の主に視線を向ければ、
    「いいじゃんいいじゃん、作ろう!」
    彼は指をぱちんと鳴らして、人懐っこい笑顔を返す。
    「一十木、作るのは俺だ。」
     聖川はそう言ったが、表情は明るい。
    「おい。どうしてそうなったんだ。」
     俺は欲しいどころか、胸中に燻る「可愛い」も、口に出してはない。睨み付けてもどこ吹く風の一十木が、聖川の持つ黄色を指差す。
    「それ、那月の分だよね。」
    「そうだな。」
    「那月のを、砂月にあげようとしたから、怒ってるんだよね?」
    「なるほど。」
     聖川が頷く。彼はそれが理解出来なかったらしい。
     一十木は俺を覗き込みながら続ける。
    「だから、砂月も、自分用に作って欲しかったんだよね? 違う?」
     遠慮しなくていいよ、俺、わかってるから! とでも言いたげな、まっすぐな瞳。
    「違う! 那月が好きなもんだろ! 俺じゃなく、本人に直接渡してやれ!」
    「ああ!」
    「そういうことか。」
     聖川が真っ直ぐにこちらを見遣る。身長差があまり変わらない、ほぼ同じ高さから向かう視線には、
    「そうならそうと、はっきり言え。言葉にせねば、伝わらないことも多い。」
    一十木同様、俺をどこか子供扱いする色が含まれる。
     俺の目つきが険しくなるのを見て、春歌がおろおろと周りを見渡し、渋谷がそれに気づいて、春歌? と呼ぶ声が耳に入った。
    「ついさっきね、眼鏡をかけたままで砂月くんってわかるでしょうか。という話をしていて。」
    「砂月と那月の区別? そんなの歩き方見たらわかるわよ。」
     春歌は頷いた。
    「ね、砂月くん!」
     この天然平和ボケ集団には、言葉にしようがしまいが関係ない気がする。そして、その考えは恐らく、間違いではないはずだ。
    【 2012/03/21 23:21 】

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