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    息抜きが暴走した。
     卒業して、四年が経とうとした、ある日のこと。テレビ局のちょっと偉い地位のおじさんから、「君たちは、本当に仲が良いね~。」と見初められたのが、事の始まり。
     君たち、というのは俺の同期――共に一年の学園生活を過ごした、一ノ瀬トキヤ、聖川真斗、四ノ宮那月、渋谷友千香、来栖翔、神宮寺レン、そして俺、一十木音也の七人メンバーのことを指す。本当は、ここにもう一人、作曲家の彼女が入って、八人で仲良しなんだけど、表に出てこない子だから、おじさんが知らないのも仕方がないよね。でも、心の中でちゃんと付け加えておいた。七海もです。って。
     とにかく、俺たちが一つの楽屋でわいわいしてるところを、偶然通りかかった、お偉いさんが見て、ピンっときたらしい。そうだ、今をときめくシャイニー事務所のアイドル七人を全員主演にしたSPドラマを作ろう! 絶対にいい数字がとれるはずだ!
     話はあれよあれよと進んでいって、俺達は一週間、離島のスタジオで撮影を行なった。リンちゃんやリューヤさんも一緒だったし、なんだか学生時代に戻ったみたいだった。皆で一緒に仕事をするのは本当に楽しい。
     しかも、ホテルの部屋はトキヤとツインだったんだ。懐かしくて、はしゃぎすぎて叱られちゃったけど、それもまた懐かしくって。嬉しかったな。
     ただ、この場所に七海がいないことが、純粋に寂しかった。俺のパートナーで、ずっと隣にいてくれたから、彼女がいないと、ぽっかり穴が開いてしまう。今日もまた、家で作曲をしているんだろうか。友千香と、そして、トキヤというストッパーがいないからって、無茶していないといいけど。
     クランクアップ後は全員、ホテルのバーに連れて行かれた。俺と翔はまだ未成年、友千香は女子だから、とリンちゃんとリューヤさんが庇ってくれて、お酒は免れたけど、他の四人は大人のスタッフさんにもみくちゃにされて大変そうだった。
     それでも、レンや那月は一年前からお酒を飲めるようになっていた分、断り方も知ってたし、お酒に耐性もあるみたいだった。マサは弱いらしくて、少し飲んだだけで寝ちゃったから被害は軽かった。――問題は、トキヤ。目上の人に対して最大限の敬意を払うから、注がれたら断れずに、全部飲んでしまったんだ。


    「トキヤー。はい、水。」
    「ありがとー…ございます。」
    部屋に帰った瞬間、トキヤはベッドに倒れ込んで、そして、今に至る。呂律がまわっていないトキヤなんて珍しくて、なんだか可愛いなって思って笑ったら、
    「なんですか……。気持ち悪い……。」
    いつものトキヤらしい言葉が返ってきた。
    「いや、七海に見せてあげたいなって。」
    「春歌に……ですか……。」
    「はい、こっち向いて!」
    「なっ……! やめなさい!」
    携帯を向けたら、機敏な動きで取り上げられた。案外平気そうじゃん。と思ったけど、そのまま、また、ベッドに沈んでいく。
    「あ……ごめん。」
    ちょっとふざけすぎたかも。お詫びとばかりに、頭を撫でてみる。
    「やめなさい……。」
    いつもなら軽く振り払われるのに、それが出来ないトキヤに、事の重大さがわかって真っ青になった。
    うっすらと開けた、潤んだ目が俺を捉える。はぁ。と、ため息をついて、トキヤが、安心しなさい。と言う。
    「あなたに心配される程、では……ありません。」
    「だって、いつものトキヤらしくないし……いいじゃん。心配ぐらいさせてよ。」
    懲りずに頭を撫でれば、ため息と、それから、規則正しい深呼吸が続く。静寂に耐えきれなくなって
    「トキヤ。死んだら嫌だよ。」
    と、言ってみる。
    「縁起でもないことを……言わないでください……。」
    「トキヤがいなくなったら、七海が泣くよ。」
    彼女は皆で一緒に住む寮で、一人、恋人の帰りを待っている。その健気な姿をトキヤも想像したみたいで、
    「そんなこと……あなたに言われなくても知ってますよ……。」
    眉をひそめる。きっと今、同じように、胸が痛くなったんだ、絶対。
    「あと、トキヤがいなくなったら、俺も泣くよ。」
    「どうして……。」
    「えっ。」
    目を丸くして、言葉の意味を考える。どうして。って、どうして?
    「友達がいなくなったら、悲しいよ。当たり前だろ!」
    「友達……ですか。」
    「そうだよ! 友達!」
    俺が一方的に想ってたなんて、そんなの認めないからな! トキヤだって、俺のことある程度は思ってくれてたって、それは自惚れじゃないはずだから。
    「……私は、」
    仰向けに寝転がるトキヤは、照明が眩しいのか、腕で目元を覆う。
    「あなたに、歌を教える、ふりを、して……本当は、利用していた、に過ぎません……。」

    俺は、恋のキューピットだったと思う。
    クラスの違う七海とトキヤが出会ったのは、俺と七海がパートナーで、俺とトキヤが同室だったからだ。学生時代はよく、三人で練習をした。トキヤは俺を厳しく指導してくれて、そのおかげで七海の曲を歌いこなすことが出来たって、今も、感謝してる。
    「……わかりますか? あなたが、友と呼ぶ私は、」
    「知ってたよ。」
    トキヤの声を遮って、ふぅと息を吐く。重苦しい空気は嫌いだ。
    「トキヤがはじめから、七海目当てだったこと位、わかってたよ。ていうか、バレバレ。」
    むしろ、ばれてなかったと思っていたんだ? と聞けば、ぐぅ。と言葉に詰まる。今日のトキヤは、いつもはなかなか見せてくれない表情ばかりで、面白い。
    「だってあなたは……私が春歌と付き合うって聞いても……何も言わなかったから……。」
    「えっ。おめでとうって祝福したよ?」
    「そういう話ではありません。……知っていたなら、もっと、私を責めてもよかった、でしょうに。」
    そして、いつもより饒舌で、弱々しい。……普段が、虚勢なのかも、と思う程に。
     一ノ瀬トキヤという人間は、心の内を人に見せるのを嫌った。完璧な人間を装って、弱い自分を隠していたんだって、初めて知ったのは、卒業後に七海が作った、トキヤのための曲を聞いた時だった。
     なんだ、俺と一緒だったんだ。って気づいた。ただ、隠し方が違っただけで。俺は、明るい自分をさらけ出すことで、本当の自分の存在を隠してたから。
     トキヤに対する劣等感の、答えはきっと、ここにある。
     トキヤの言葉は続く。俺に言っているのか、一人言なのかは、よくわからない。
    「私がいなければ……春歌はあなたを好きになっていたでしょうし……あなただって……春歌のことを……」
    「トキヤ、」
    逆もまた、そうなのだと思う。トキヤの俺に対する執着は、自分と向き合うことの裏返し。
    「俺にとって大事なのは、二人で、七海の歌をみんなに届けようって約束したことなんだけど、ちゃんと覚えてる?」
    そんな二人が、一緒になって執着したもの。七海がいたから、俺達は友達になれたと思うよ。
    「もちろんです、よ。もの忘れが激しいあなたと……一緒にしないでください……。」
    弱ってるんなら、悪態をつくのもやめればいいのに。と思ったら、また笑ってしまった。
    だから、重苦しいのは、なしにしよう?
    「もしもの話は、好きじゃないんだよね。」
    トキヤのために入れた水を、一気に飲み干して、立ち上がる。背伸びをしたら、関節が音を立てた。
    「今、七海はトキヤのことが好きで、トキヤの恋人! そして俺は、七海に恋をしていない。ただ、それだけだよ。」
    水、注ぎなおしてくるね。と小さな冷蔵庫へと向かったのと、ノックの音がして、翔とレンがトキヤの様子をうかがいにきたのはほぼ同時で、俺は二人に任せて、お菓子を買うという口実で部屋を出た。

     

    「うわぁ、トキヤ、お前、酷い顔してんなぁ。」
    「イッチー、お酒は飲んでも、飲まれちゃ駄目だ。……と、まあ」
    「お酒だけが理由じゃない、」
    「みたいだねぇ。」
    「ほら。黙ってないで、吐いとけ。」
    「こらこら、おチビちゃん。無理矢理言わせるのは良くない。」
    「いいんだよ、こいつにはこの位で。なんでも溜め込むんだから。」
    「ま、その意見には同意見だけどね。」
    「音也に……、」
    「音也?」
    「イッキがどうかしたのかい?」
    「嘘、を……つかれました。」

     

    俺は、恋のキューピットでいたかった。
     本当は、入学する前、入試の日からずっと、七海のことが好きだったけど、これはトキヤには内緒の話。
     もしもの話は嫌いだ。そんなの祈ったって、叶ったことなんてない。
     大切なのは、七海は今、トキヤの彼女で、とっても大事にされていて、とっても幸せそうに笑うんだ。
     そうして、幸せで満ち足りた音で世界を紡ぐ。
    「一十木くん、新しいメロディが浮かびました!」
    俺のための曲を、今も変わらず作り続けてくれるから。
     大事なのは、俺は、七海もトキヤも、大好きだっていうこの気持ちだよね?
    「一十木。」
    「音也くん。」
    「マサ! もう大丈夫なの? あ、那月がついててくれたんだね。」
    ロビーに差し掛かったあたりで、級友に呼び止められ、そちらに駆け寄ると、
    「お前は、大丈夫か?」
    と、マサが渋面を作る。
    「えっ。俺は飲んでないし……。」
    「そうじゃない。この、嘘つきめ。」
    こつん。と軽く拳が頭に当たる。まったく痛くなかったのに、その反動で、涙がボロボロと溢れ落ちた。止めようと思うのに、止まらなくて、その顔に、もふもふした何かが押し付けられた。
    「僕の可愛いウサちゃんです。今は一匹しかいないけど、ぎゅってしたら、心が落ち着きますよ?」
    白いぬいぐるみをどうしてロビーに。という疑問は残ったものの、その言葉通りに、思いっきり抱きしめる。
    「マサ~。那月~。俺、失恋したんだ~。」
    「何故三年も前のことを今頃。」
    「なんで知ってるんだよぉ。」
    「音也くん、ハルちゃんが大好きでしたもんね。」
    「バレバレじゃん!」
    泣けばいいのか、笑えばいいのか、わからない。二人にも知られていたんなら、トキヤが気づいてない訳がない。随分と幼稚な嘘をついてしまったらしい。
    「でも、トキヤは、騙されてくれるよね。」
    なんの説明もなかったのに、
    「そうだな。」
    「そうですよ。」
    二人が同意してくれるのが、すごくありがたかった。


     恋のキューピットは、正直者すぎて、うまくできなかったけれど。

    「ただいま、トキヤ!」
    「大声を出さなくても聞こえています……。」

    俺はこれからも、友達ではいたいと心からそう思う。
    【 2011/11/15 04:35 】

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