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    妄想力は使わないと衰える‐3
    「ただいまー。」
    明かりが点いたままの室内に向かって声をかけるが、返事は返ってこない。
    首を傾げて、
    履物を脱ぎ、
    「ユウー?」
    ドアを開けるとそこに、同居人の姿はあった。
    机につっ伏した状態の彼に差し足で近づけば、
    小さな寝息が耳に届く。
    7月の始め、時計の短針が8を指す頃。
    肌に触れる空気はじっとりと暑く
    このまま放っておいても、自然に起きるのではないかと思う。
    だから、
    まじまじと、腕に頬を乗せて眠る彼を見ていた。
    一緒に暮らすようになってから、もうすぐ4か月になるが
    寝顔を見るのは初めてだった。
    学年が上の私の方が授業が少なく、始動時間が遅いため
    私が寝顔を見られることは多々あり、
    起こしてもらっているのでそう文句は言えないものの
    フェアじゃない、そう考えていたから
    やっと見てやったぞ! という気分だ。
    これはもう、穴があくまで見るしかない。
    腰から体を折って、覗き込む。
    私がやられたのと、同じことをしたかった。

    嘘。
    ただもっと、近づきたかっただけ。

    自分に言い訳を作る。
    素直じゃない。
    幸せそうな寝顔は憎らしく、
    胸にじんわりと広がる愛おしさを
    読み替えようとした。
    もどかしく、息を飲む。
    静かなこの部屋で、やけに大きく聞こえた。
    私の呼吸音。
    彼の寝息。
    前髪に落ちる影が見える距離では
    彼の匂いに気づける。
    くらくらする。

    仕返しをするの。
    いつも私を振り回す君に。

    私の黒い横髪が机に落ちた。
    「キスしちゃうよー…?」
    心臓の音に負ける程度の小さな呟きに
    彼が起きることはないだろう。
    安心すると同時に寂しくもなる一人戯びは
    暑さを一瞬忘れさせた。
    でも、またすぐに戻ってくる。
    背中にシャツが張りついて
    ひとつ大きく、息を吐いた。
    近づきたい。
    次は、
    触れたい。
    唇に。
    そこに、理性と言う名の臆病が
    私にささやいたのだ。

    悪戯じゃあ、済まないでしょう?

    張り裂けそうな想いをぶつけて
    私はきっと、無事ではいられない。
    誤魔化すことが出来ない位
    知ってる、私は君が好き。

    息を止めた、瞬きの間。
    「……嘘だよ。」
    そう、こぼした。
    緩やかな動きで、体を起こそうとする。
    君が近すぎて。
    それなのに、
    髪がくん、と伸びて
    私は動きを止めた。
    「なんだ、してくれないんだ。」
    見上げる瞳に、
    あれだけ騒いでいた心臓の音は一時だけ静まり返り
    声にならない悲鳴と同時にまた、鳴り響く。
    同居人は柔らかく笑った。
    いつもと同じ、余裕の笑みで
    掴んだ一房の黒髪を鋤く。
    そこに優しさを見いだしてしまう自分の過大解釈を呪う。
    静まらない心臓は
    急激に室温を下げる。
    体温を上げる。
    目を逸らせずに、口をパクパクさせて
    いつから起きてたの?
    と聞きたいのに、うまくいかなかった。

    動けない。
    掴まえられているから、
    だから、痛い想いをするのがわかるから、
    そう、それだけ。
    数cmの距離感で、真正面から微笑みを受けても
    逃げられない。
    もう何も考えられない。
    「じゃあ、俺から。」
    手繰り寄せられる。
    悔しい。
    苦しい。
    数cmの距離はあっという間になくなって、
    私は息を止めて、瞳を閉じた。





    ※筆者はここで息絶えた。
    【 2011/06/10 17:38 】

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